柳田理科雄氏・著の人気書籍
『空想科学「漫画」読本』。漫画のコマの中で起こっている事象を取り上げて、それを科学的に分析しようという試みの本である。目の付け所は結構面白くはあるのだが、いかんせん最初の仮定の部分がイイカゲンで、著者が一人で盛り上がってることが多いので、ちょっとシラケることも確か。その一例をご紹介しませう。
117ページの「男おいどん」の項。おいどんの下宿のばーさんが、おいどんの為に「タテだかヨコだかわからないビフテキ」を焼くシーンだ。著者の解説をまとめると
1)ビフテキの1辺は、左の女性の肩から肘くらいまでの長さとほぼ同じ。
2)おいどん連載時の昭和40年代、20代女性の平均身長は155cm。
3)著者の身長と肩から肘までの長さとの比を当てはめると、
この女性の肩から肘までは 31cm(つまり身長の 1/5 )。
よってビフテキの1辺の長さも 31cm。
となっている。
しかしである。もしも彼女の肩から肘までの長さが身長の 1/5 であるとすると、彼女の体型はかなりトホホなものになるはず。ポインタを絵に合わせてみてください。
松本零士の美女キャラで、この体型はあり得ない! 著者は他のコマから、彼女の肩から肘までの長さが身長の何分の1に描かれているかを割り出し、平均身長にそれを掛けるべきではなかったのか。しかもこれ、遠近法で女性の方が小さめに描かれている可能性もある。
これはやや余談だが、仮に1辺が 31cm のビフテキだったとすると、肉の重さはほぼ 30kg になる。箸とシャモジに何キロの荷重をかけると折れるか実験したら、箸が 3.6kg で折れ、シャモジは 12kg で折れたという。試しに箸とシャモジで自分がどの位の重さのものを持ち上げられるか実験したら、折れるまでもなく 10.1kg しか持ち上がらなかったので、バーサンも怪力だし箸もシャモジも驚異的に頑丈だと結論づけている。
そりゃあそうかもしれないけど…肉の焼く面を変えるのに、持ち上げなきゃならないってことはないわなあ。回転させればいいんだから、これよりは少ない荷重で済むはず。しかも今は箸とシャモジを持っているが、それは肉を押しつけるためかもしれず、面を変える時には手を使ったりしているかもしれない。
こんな感じで著者が「凄いスゴイ」と盛り上がっているので、ちょっと興醒めしちゃうんである。こんな私はアマノジャク? いやしかし、面白い本ではあり、時々思い出したように読み進めている。
※問題のコマはスキャナ使うのが面倒くさくてかなりテキトーに撮影して取り込んだので、相当ゆがんでいるしピンぼけしてます。すんません。が、長さの比が極端に変わるほどではないです。